大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所 平成8年(ワ)125号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の求めた裁判(請求の趣旨)

1  岐阜地方裁判所が昭和60年(ケ)第263号不動産競売事件において平成8年3月8日に作成した配当表につき、被告に対する配当額が913万0,960円とあるのを0円とし、右金額を原告への配当額に加えると変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張等

(事案の概要)

本件は、原告の被告に対する配当異議の事案である。

一  配当表が作成されるまでの経緯について以下の事実は当事者間に争いがない。

1 岐阜地方裁判所は、債権者同和火災海上保険株式会社の申立てにより、別紙物件目録記載の不動産等についてなされた不動産競売事件(昭和60年(ケ)第263号)において、平成8年3月8日に、別紙のとおり配当表を作成した。)

2 原告は、右不動産競売事件において、債権元金7,916万1,400円、損害金5,459万4,538円、合計1億3,375万5,938円の配当要求をしている。

3 被告は、被告を賃貸人とし、(宗教法人)不動院を賃借人とし、原告外2人をその連帯保証人とする、東京法務局所属公証人吉良敬三郎作成、昭和56年第2367号建物土地賃貸借契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)の執行力のある正本に基づき、岐阜地方裁判所に、原告に対する債権差押命令の申立てをし(平成7年(ル)第92号)、同裁判所が原告の右配当要求債権に対して債権差押えをしていた。

4 原告は、平成8年3月8日の配当期日において、前記配当表に対し、被告への配当額913万0,960円を0円に減額し、右金額を原告への配当に加えるとの異議を述べたが、協議はできなかった。そこで、原告が本件訴訟を提起した。

二  原告の配当異議事由について(争点)

原告は、以下のとおり配当異議事由がある旨主張し、被告はこれを争うので、この点が争点となる。当事者双方の主張は以下のとおりである。なお、文中の亀甲かっこ内の証拠は当事者の援用する証拠である。

(原告の主張)

1  被告の債権は、本件公正証書に基づく債権ではあるが、本件公正証書中に表示された本件土地建物についての賃貸借契約等は通謀虚偽表示による無効のものであるから、原告は被告に対して、本件公正証書に基づく債務を負うものではなく、仮に、右賃貸借契約が有効であるとしても、それに基づく被告の原告に対する債権そのものが時効により消滅して存在しないものである。原告は、本訴において右消滅時効を援用する。

2  なお、原告は、被告に対し、本件公正証書の執行力の排除を求めて請求異議訴訟を提起し、岐阜地方裁判所平成7年(ワ)第382号として係属中であるが、その主要な異議事由は、

(一) 本件公正証書における賃貸借契約が通謀虚偽表示により無効である。

(二) 無権代理により無効である。

(三) 右賃貸借契約に基づく賃料ないし損害賠償債権が消滅時効により消滅した。

というものである。その主張の詳細は別紙原告の主張のとおりである。

(被告の主張)

1  原告の通謀虚偽表示により無効、無権代理により無効との主張を争う。

2  なお、時効の主張については、原告と被告は、昭和58年1月22日に、原告が本件土地建物の固定資産税を被告に代わって納付し、これと賃料債権とを相殺するとの契約を締結している。原告は、被告との間に、被告所有の本件不動産について固定資産税の納付書が代納届により原告宛てに発送され、原告はこれを代納することにより、被告に対し、賃料の一部を支払っていることとなり、昭和57年度の1期、2期分の合計19万0,830円を代納したとして、岐阜市役所発行の納付者株式会社不動観光と記載のある領収証を同封してきている。被告は、この代納契約を解約したことはなく、原告の代納義務は継続中であるから、消滅時効は進行しない。

また、原告が、被告に対し、昭和60年8月18日に、賃料の滞納分の内払いとして14万円を被告の東海銀行新橋支店の口座に振込送金して支払った事実もある。

三 原告の本件請求

以上の争いのない事実及び原告主張の事実に基づいて、原告は、被告に対し、本件配当表について請求の趣旨記載のとおりの変更を求めた。

第三  当裁判所の判断

一  争点の配当異議事由の存否について

原告の主張する配当異議の事由は、要するに、被告が不動産競売事件において有する配当要求債権に対して債権差押をした本件公正証書に基づく債権は、賃貸借契約自体が通謀虚偽表示等により無効でもともと存在しないか、あるいは、存在したとしても、それに基づく賃料ないし損害金債権が時効により消滅したというものである。

しかしながら、右債権差押は取り消されることなく存続しているものであるから、これを有効なものとして、被告に対する配当を認めた配当表には違法はなく正当というべきである。

もっとも、請求異議事件において、原告が勝訴し執行力の排除が認められた後においては別であるが、本件における証拠関係(請求異議訴訟と同じものが提出されている。)を検討しても、請求異議訴訟についての確定判決のないままに、前記差押債権の不存在を認めて、配当表を変更するのを相当とすることが認められるほどの明確な証拠はない(原告が別紙原告の主張において主張するところはいずれも採用できない。)。

また、原告は、仮に、本件公正証書に表示された本件賃貸借等契約が有効であるとしても、被告の原告に対する本件差押債権は時効により消滅している旨主張するが、本件差押債権が、本件賃貸借等契約によって、被告の不動院に対する本件土地建物の賃貸借契約の解除後の損害金約定に基づく債権であることからすると、それは賃貸借契約解除の後、不動院が本件土地建物の占有を継続するかぎり日々発生するもので、弁済期はその都度到来するものであるから、5年内の平成2年3月21日から平成7年3月20日までの1825日間の損害金に限って申立てのされた本件債権についての債権差押えの申立ては、その消滅時効の期間が経過していないものであることが明らかであるから、この点でも原告の消滅時効の主張は採用できない。

その他、配当表を変更すべき事由を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は認めることができない。

二  検討の結果

以上、検討の結果によれば、原告の被告に対する本件請求はその理由がないから棄却すべきである。

(別紙)配当表<略>

物件目録<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例